上司にいきなり「今日から君は知財を担当してもらう」と言われたらどうしますか?とりあえず知財についての本をいろいろ読んだり、ネットで知財について調べたりするかもしれません。
それはそれでよいのですが、適切な羅針盤なしに闇雲に進んでしまうとかえって訳が分からない!という状態になってしまうでしょう。
そもそも「知財(Intellectual Property:IP)」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか?アニメ、漫画、映画、ゲームやゲームのキャラクター、マスコット、あるいは特許、デザイン、ブランド、商標等々、おそらく「知財」という単語に接した人の普段の仕事や業界によってイメージする内容が異なると思います。
そのため、「知財」や「IP」という言葉を使って話をしていても、話す相手によって微妙に話の内容が食い違うことがあります。つまり、「知財」という単語自体が同一であっても共通言語にはなっていない、ということです。例えば、Aさんが「キャラクター」を念頭に「知財」という言葉を使って話す一方で、Bさんが「ブランド」を念頭に「知財」という言葉を使って話すような場合です。この状況で「知財」が共通言語になっていないことに気が付かないと、互いに「なんか話が通じないなぁ」と思いつつ話し続けることになってしまいかねません。
一方、知財を扱っている弁理士は、特許、商標、著作権等のみを考えているわけではなく、対象となるビジネスや事業の全体を見て「知財」を把握しています。そのため、話をしている中で違和感を覚えれば、それまでの話を総合して相手が「知財」をどのような意味で用いているのか、あたりをつけることもできます。つまり、弁理士は、「知財」を特許権や商標権等の知的財産権のみならず、様々な対象を含めて広く捉えて考えています。
そこで、「小さな知財部」のコラムでは、「知財」を「他者に譲渡可能となった知的可能性の集合体(知的情報のかたまり)※1」と定義します。
単なる情報ではなく、「他者に譲渡可能」な状態になっていること、色々なモノ・コトに化ける「知的可能性」を有すること、そして、情報の断片や一要素ではなく「集合体」であること。これらを満たすのが「知財」です。多くの弁理士は「知財」をこのように捉え、事業者のビジネスを把握しています。
知財はビジネスに役立たせるために活用するものです。そのため、これから知財に携わる方々にとって「知財」が、特許や商標、著作権等、更にはノウハウや顧客名簿等の様々なものを含む「知的情報のかたまり」である、という点を頭に入れておくことが知財を扱う第一歩になります。
しかも、「知財」=「知的情報のかたまり」と認識することで、「知財」が事業者及び弁理士双方の共通言語になると思います。
by 今 智司
※1 菊池純一「知財経営の観点から判断した特許権の適正な保有件数に係る戦略的評価」知財研フォーラム(一般財団法人 知的財産研究所 2014)Vol.99,3~10頁。